vol.8 ゲスト沖那菜子さんインタビュー

こんばんは!今回は、はじめまして!の方もいらっしゃるでしょうか…?というわけで、簡単にご挨拶とご説明から。


「好き!」にふれる、熱くしゃべれる、誰かに伝えたくなる。福井発のトークイベント、おふくわけ。

と申します。


毎回1人のゲストをお呼びし、トークテーマである“好きなもの”や“熱いこだわり”をたっぷりお話いただく、おふくわけ。参加者は定員10名と少人数に限定し、ゲストと参加者の双方向コミュニケーションがとれる、ちょっと新しい形のトークイベントです。


福井の小さなデザインの学校『XSCHOOL』1期生メンバー、東京・福井・大阪の3人から生まれたこのプロジェクトも、2017年1月から定期的に開催し…とうとう8回目となりました。福井、そして富山での出張回を経て…北陸をサンダーバードで飛び出し…


今回の開催地は、大阪!!!


記念すべき大阪でのゲストは、グラフィックデザイナー、イラストレーター、そして活版印刷ワークスペース 『Echos』主宰の沖 那菜子さんです。テーマは「活版印刷ワークスペースができるまで」


おじいさんが残された古いビルをリノベーションし、クラウドファンディングを見事成功させて『Echos』をオープン、また、西日本最大級の活版印刷イベント『活版WEST』の言い出しっぺでもあり、その行動力と実現力が注目され、多数のメディアから取材やインタビュー依頼が舞い込んでいる沖さん。

当日イベントでは、活版印刷のワークショップ、クラウドファンディング・活版WEST立ち上げの話を中心にお送りしようと思いますが、今回のインタビューでは現在に至るまでの沖さんのこれまでを、じっくりお話いただきました。ちなみに沖さんとブログを書いている私・吉鶴は、京都のデザイン塾で出会った同世代のデザイナー仲間。話し手のしっかりした言葉に対して、聞き手の語彙力のなさが目立ちますが…どうぞお手柔らかに♪


では、沖さんのインタビューをどうぞ!

おふくわけ(以下、ふ)沖ちゃん、簡単に自己紹介をお願いします!

沖 那菜子さん(以下、沖)沖 那菜子です。祖父が戦後にはじめたステーショナリーメーカーで、商品企画・デザインなどをしています。また、2017年9月には大阪の堺筋本町に活版印刷ワークスペース『Echos』をオープンしました。Echosを中心に、同じビルにあるオフィスやイベントスペースの企画運営もしてます。

ふ:えーと、肩書きって…?

沖:ん~、名刺はデザイナー。だけど、ステーショナリー製品の商品企画からデザイン・イラスト、そして最近では印刷まで、全部してますね。

ふ:どんな製品を作っていますか?

沖:レターセットやグリーティングカードなど、コミュニケーションツールとなるようなステーショナリーを作っています。私はよく『お手紙まわりのステーショナリー』と呼んでますね。シールとかマスキングテープもあるんですけど、それもお手紙で使う機会が結構多いと思ってます。

ふ:手紙をもらうと、マスキングテープで貼ってる人多いもんね。

沖:そうそう。最近では『紙もの雑貨』とよく呼ばれていて。お手紙を書く、という紙で人に想いを伝えるという文化がもっと日常的になればいいな。と思っていて。それで活版印刷を選んだ経緯もあります。

ふ:私も紙もの大好きで家に山ほどあふれてるな…

ふ:では『Echos』を開くまでの道のりをお聞きしたいと思います…じゃ、子供時代から。

沖:結構さかのぼるのね(笑)

ふ:いろいろ率先してやるタイプだけど、クラスのリーダーとか?

沖:いや、ぜんぜん…。お兄ちゃんの後をくっついてるような子で男の子に混じって少年野球するような。遊ぶのも木登りとか、秘密基地ごっことか。女の子らしさは一切ない落ち着きのない子だったよ(笑)

ふ:(笑)生まれは?

沖:生まれは東京、2~10歳まで千葉。バスと車しか交通手段がないような、片田舎の小さな町に住んでいました。それから、阪神淡路大震災があって、母方の祖父母が不安だから帰ってきてと言われて。それで10歳の時、神戸に引っ越してきたんです。『Echos』誕生のきっかけとなる、祖父の仕事については当時何も知らず、祖父母も母も何も言わなかったので自分の道を進む感じでした。小さい頃から絵を描くのと英語が好きだったから、中学生の時にカナダに1ヶ月短期留学に行って…

ふ:え?!中学?!

沖:当時、震災で被災した子供たちが安く留学できる制度があり、そのチラシを見たのがきっかけ。とにかく好奇心旺盛だったから『安く行けるなら、行きたい!』って。

ふ:怖い、とかなかった?お母さん心配しなかった?

沖:ぜんぜん。物怖じしない性格で、怖さより好奇心が勝っちゃってね。海外に行きたい!っていう軽いノリで。母も貿易関係の仕事をしていたからグローバルな考え方であっさりOK。欧米やアジアから切り花の輸入を、40年ぐらい前、おそらく一番最初にやったのではないかと。

ふ:すごい!!

沖:うん、今の私とちょうど同じ年ぐらいかな。だから、むしろ『どんどん外に出て行きなさい』て言って、母子家庭だったから金銭的な余裕はなかったんだけど…頑張って行かせてくれた。で、行ってみると英語で喋るのが性に合ってて、外国の人と喋るのも楽しかった。

ふ:ほう…。

沖:あと、昔から絵を描くことも好きだったので英語とか学べる国際学科と迷ったんだけど、最終的に京都造形芸術大学に入学しました。日本画コースを専攻した後、3回生から版画コースに。木版・銅版・シルクスクリーンを学んだんだけど、もっと勉強したくって。版画は奥が深くて、半分が作家で半分が職人。彫り・刷りの技術は、経験・鍛錬が必要だったから …大学卒業しても学びたいなと。

ふ:で、大学院へ進んだの?

沖:いや、フランスへ(笑)

ふ: また!!!(笑)いや、英語喋れるもんね、ってフランス、英語圏ちゃうやん。普通英語圏行くでしょ。

沖:あー…(笑)英語圏はとにかく高い!から、すぐ諦めて。フランスは学費も生活費も安い!学生にとにかく優しい国で、外国人でも家賃補助制度とか、保険も入れて、すべてに学割が適用されます。よく「フランス留学とかお金持ちだね!」って言われるけど、高いのは飛行機代だけで、日本より安く学ぶことができるので、本当おすすめです。

ふ:そうなんや!とは言え、その勇気はないけれど…

沖:最初の3ヶ月間で住む場所と語学学校だけ決めて、単身フランスへ。現地に着いてから調べて見つけた『アトリエ コントルポワン』で約2年間、銅版画を学びました。日本では木版をやっていたんだけど、日本みたいに版画に向いてる木材が手に入りにくいから、そこでは銅版をやることに。

ふ:なぜ?

沖:フランスでは日本で一般的な木版って、あまりメジャーじゃなくて。日本は、浮世絵もあるし、みんな中学校とかで木版画するから身近だけどね。

ふ:たしかに!彫刻刀持ってた!

沖:そうそう。

ふ:3年もいたら、またフランスに戻りたい!ってなったりする?

沖:んー…また行きたい気持ちはあるけど住みたいとかはないなぁ。

版画を学びに行った先がたまたまフランスだっただけで、当初はそんなにフランス自体には興味なかった。

今はいろいろ知ったし、馴染みもあるから好きですけどね。

ただ、フランスに3年住んだということが経験・版画の技術含めて、大きなターニングポイントになりました。

沖:あとは、フランスで一番学んだことは『動かないと何も始まらない』っていうこと。

ふ:お!詳しく聞きたいです。

沖:フランスのサービスって、日本に比べてすごい不親切なのね。まぁ、日本が便利すぎるってことなんだけど。アポイントとってもすっぽかされたり、電話しても出ない、期日も守られない、今までの常識が通じない…。だから、とにかく行く、とにかく突撃してみる。自分が動かないと進まないし、誰も教えてくれない。いい意味でも悪い意味でも『厚かましさ』を身につけたかな。

ふ:沖ちゃんも含めて行動力ある人をとても尊敬しているんだけど、そんな人たちに話を聞いてみると「とりあえず行ってから、やってから、怒られてから考えよう!」って。

沖:あはは!そうかも!引き換えに羞恥心と謙虚さは…(笑)「やらなきゃ、生きていけない!」って必要性に駆られて強くなったね。あと、人目を前より気にしなくなった。「これしたら嫌われないかな」とか「変に思われないかな」とか思っちゃう、気にしいの自意識過剰だったんだけどね。今もあるけど、ちょっとはましになったかな。

ふ:うっわ~!!私いまだにや~…海外いこうかしら…。

沖:ぜひ!!!当日、留学の回にしようか?

ふ:いえそれは個人的に。『活版印刷ワークスペースができるまで』をぜひお話くださいませ(笑)

ふ:それから、日本に帰ってきて…?

沖:高校生の時に祖父が亡くなったんだけど、遺言で 母に会社を継がせたい、と。そこで初めて祖父の仕事を知ることになりました。戦後、昭和30~40年代を中心にステーショナリーのオリジナル商品を作っていたんだけど、高度成長期の万博や東京オリンピックの仕事に携わるようになり、もう一社経営していた卸業の文具問屋の比重が大きくなって商品を作ることができなくなった。…でも本当はオリジナル商品が作りたいって言ったまま、亡くなってしまった。

ふ:おじいちゃん…(涙)

沖:じゃあ、その想いを引き継ごう!と当時50代の母が一念発起で、ノウハウも販路も何もない状態からスタート。

ふ:お母さん…!!!!(涙)

沖:そんなある日、自宅ガレージで整理していたら、祖父が戦後に作ってたオリジナル商品のイラスト原画がとてもきれいな状態で見つかって。

ふ:え、昭和30~40年代のものが?なんでそんな古いものが…?

沖:それがね、炉用の炭の箱の上にたまたま乗ってたの。墨が除湿や防虫をしてくれていて…

ふ:えーーー!!もし、炭の上に乗ってなかったらボロボロだった、てこと?!奇跡!!!

沖:絵柄もきれいでとっても素敵で、これは絶対世に出さなくてはいけないね、と。ただ当時からだいぶ年月が経っていたからその絵柄を描いた作家さん探しからスタートしたんだけど、存命されているかどうかも、誰が著作権を持っているのかも、何もわからなくて…インターネットで調べたり、いろんなところに問い合わせをして。今は皆さん亡くなってしまったんだけど、当時はお元気な方もいらっしゃって連絡をとることができて!作家さんがまだ駆け出しだった頃、祖父にとても良くしてもらったとおっしゃってくださり「どうぞ作ってください」と。そこから、当時のオリジナル商品を復刻することになりました。

ふ:おじいちゃん…(涙)

沖:でも1からのスタートだったから、母も一人で大変…!!フランスから帰ってきて、自分も何か手伝えることはないかと思い。そこでデザインの勉強を始めました。

ふ:おお!それがデザイナーを始めるきっかけだったのね!!でもなんでデザインを?

沖:原画をデータ化するのも、入稿データを作成するにも何をするにしても外注費がかかってしまう。だから、デザインができなくても、ちょっとしたデータを作るぐらいのソフトが使えるようになれればいいなと始めたんだけど、デザインにどっぷりはまってしまって。グラフィックやWEBをいろんなところで学びました。それからは、平日は家の仕事とWEB製作会社、土日は専門学校の講師アシスタント…。

ふ:ハ、ハードすぎる…!ぜんぜん遊ばれへんやん!

沖:そうね、その時祖母の介護もあってそういや本当に遊んでないな…。仕事・勉強・介護の繰り返しで…遊びに行けない、飲みにも行けない、誰とも会えない、何が楽しくて生きてるんだろうっていう20代後半だった。ただ10年以上の介護で母はもっと大変だったと思う。

ふ:沖ちゃん…(涙)

沖:そんな時、Echosの入っているビルのリノベーション話が持ち上がりました。最初はどうするか決まっていないけど、ただのきれいな箱にはしたくなくて…。若い時に家族を失った祖父が大事にしていたことが『ものづくり』と『人とのつながり』。そのことを担当の建築士さんにお話したら『それなら人が集う、ものづくりの場所にしよう』と。『誰もがものづくりしながら、人とコミュニケーションがとれる場所ってなんだろう』とどうしようかなと考えていた時に、活版印刷機“ヴァンダークック”と出会ったのです。

ちなみに東京にも1棟あり、そちらもリノベーションしたのですが、東京はシェフの兄がフレンチビストロのお店をオープンしたので食を通して「人とのつながり」を深めてくれています。


ふ:ここでようやく活版印刷、登場したーーー!!!でも、活版印刷をしたくてここを作ったんじゃなかったんやね。

沖:そう、『人が集うものづくりの場所』の中心となれるひとつの手段、が活版印刷だったのです。もちろん大前提として活版印刷が好きな気持ちがあった。活版印刷に関しては素人だったけど、活版印刷と銅版画の備品やインク、溶剤、取扱方法がだいたい一緒で、元々版画をやっていたというベースがあったから使いこなすのは早かったかもしれない。

ふ:なるほど、版画を5年間学んだことはここにもいかされているんだ。

お:で、ヴァンダークックと初めて出会ったその日に「これどこで買えるんですか?」って印刷会社さんにすぐ聞いて、最初は冗談と思われていたけど協力していただけることになりました。もう生産されてないから日本に数台しかなく、海外でも人気で価格も高騰していたから大変かと思われたんだけど、なんと運よくアメリカ・ロサンゼルスのものが売りに出されるという情報をキャッチしてくれて、アメリカに飛ぶことに。でも渡米するその前日、ずっと介護していた祖母が亡くなって…

ふ:えぇ…おばあちゃん…!!!

沖:すごく悩んだけど、祖母なら絶対『行け』て言うはずだし、母も「自分のやることをきちんとやってきなさい」と背中を押してくれて。お葬式には出られなかったけど、きちんと見送ることはできたから「行ってくるね」って泣きながらアメリカへ。現物を見ると、とても状態も良くその場で「買います!」と言って即決してきました。そうしてこの子は今ここに。

ふ:ものすごい大きい買い物だけど、信念が強いから迷わないんだな…。沖ちゃん色々苦労してるし、その苦労を自分たちで作ってたりもするんだけど、それも全部自分たちで解決して次に進んでいるよね。家族経営、というか家族の枠をもう超えている。

沖:そうだね、祖父と祖母が残してくれたたくさんのもののおかげで、家族としてひとつの方向に向かうことができました。

ふ:もうドラマのようです…涙

では最後に、おふくわけの参加者やこのインタビューを見てくださる方へ何か一言お願いします!

沖:こんな人に来てほしいとか特にありませんが、どんな方でも来ていただければ嬉しいです!私の話がお役に立てるかわかりませんが…何かやりたいけど何から始めていいかわからない人にはヒントになることはお伝えできるんじゃないかな…と思います!

いつもニコニコ、明るく陽気な沖さん。

その笑顔の裏にある、すさまじい努力とすばらしい行動力にはいつも脱帽です。成功していることばかりが目に行くけれど、そこに至るまでの様々な苦労や葛藤があったんだなと、思わず感動してしまったインタビューでした。

活版印刷のこと、クラウドファンディング、活版WESTと…、現在の活動について当日たっぷりお話いただきます!参加者の方はぜひ当日おひとり一つずつ質問していただける『おふくわけカード』の時間を設けていますので、沖さんに聞きたいこと、どんどん聞いてくださいね!

おふくわけには参加されないけど、沖さんやEchosに興味を持たれた方、ぜひぜひEchosで活版印刷体験や定期的に開催されている体験ワークショップにもご参加くださいね!

当日のイベントレポートも後日アップしますのでそちらもお楽しみに♪


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

では、おふくわけで。

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Echos

http://echos.site/top/

真創-SHINSO-

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SHISO WEB SHOP

http://shinso-webshop.com/

活版WEST

http://www.kappan-west.com/


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【ゲストプロフィール】沖 那菜子さん

グラフィックデザイナー、イラストレーター。Echos主宰。

京都造形芸術大学で日本画と版画を専攻し、卒業後に渡仏。フランスで一版多色刷りの銅版画を学ぶ。帰国後、グリーティングカードやレターセットなどを扱うステーショナリーメーカーにて商品の企画からデザインまでを担当。他にもロゴデザインやイラストなど、印刷物のデザインからディレクションまで行う。2017年9月、大阪・堺筋本町に活版印刷のワークスペース「Echos」をオープン。印刷やタイポグラフィなどの学びと制作の場として提供している。活版WEST実行委員。

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「おふくわけ VOL.8」

テーマ:「活版印刷ワークスペースができるまで」

ゲスト:沖那菜子さん(グラフィックデザイナー、イラストレーター/Echos主宰)

日時:2018年8月25日(土)17:30〜21:00

・17:30〜18:30 活版印刷ワークショップ

・19:00〜21:00 トークイベント

場所:Echos(エコース)

大阪市中央区博労町1-2-17 1F

料金:3,000円(1ドリンク+福井のお菓子 付き)

定員:10名(要予約)

〜満席になりましたので、参加申し込みを締め切りました〜

▼お問い合わせはコチラから

ofukuwake.fukui@gmail.com(担当:吉鶴)

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